Q.介護費用について,将来介護保険が適用されるから,その分を損害賠償から差し引くと言われていますが,それには応じないといけませんか。

[介護保険,介護費用,自宅介護]

A.

交通事故の被害においても,介護保険は適応の対象となります。
現在,保険給付を受けている場合には控除されます。

しかし,賠償による将来介護費用から65歳以降の介護保険給付分を控除すべきかどうかは,問題です。

将来予測に係るもので,介護保険の適応が不確実性があることから,否定すべきだと考えます。

したがって,その場合には,拒絶できると考えます。

1 介護保険と交通事故は,どのような関係になりますか。(クリックすると回答)


介護保険は,社会保険制度の一つですが,第三者が起こした事故によって介護が必要な状態になった場合にも適応の対象となります。

しかし,交通事故損害賠償とのかかわりは,ほとんどの場合,高齢者が被害者の場合に発生すると考えられます。

最近は,現在介護保険を受給している場合に限らず,将来満65歳になり介護保険を受給できるようになる分を損害賠償から控除する,差し引くことができるかと言うことで問題となっています。

2 判例はありますか。(クリックすると回答)


直接の判例はありませんが,遺族年金についての最高裁判決は参考になります。

この点で参考となるのは,遺族年金を損害賠償から差し引くことができないとした最高裁平成5年3月24日判決です。

この判決によれば,
既に支給を受けることが確定した遺族年金については,現実に履行された場合と同視し得る程度にその存続が確実であるということができるけれども,
支給を受けることがいまだ確定していない遺族年金については,その存続が確実であるということはできないので,損害額から控除することは,できないとしています。


この最高裁判決の趣旨からすれば,将来の債権については原則控除はできない,但し,例外として確実なものであれば控除できるということになります。

3 将来の介護保険給付分を損害賠償から差し引くことができるのでしょうか。(クリックすると回答)


介護保険給付に関しても,将来の給付分については,「いまだ支給が確定していない」ことだけから控除,つまり差し引くことが否定されるという結論になりそうです。

しかし,介護保険の将来給付分は,例外の給付が確実のもにあたれば控除は認められそうです。
確かに,介護給付は,死亡は別として,要介護状態の軽減,消滅以外には受給する権利はなくならないので,制度としては給付が確実ではないとは言えません。
しかし,介護給付は本人に受給の意思があって要介護認定を定期的に受けて,現実のサービスの提供を受け,その上で給付の請求をしてはじめて保険給付が受けられるものです。
その意味では,黙っていても給付を受けることができる遺族年金とは性格が異なりそうです。
地裁判決ですが,将来の介護給付について損益相殺として控除することを否定した判決が多数あります。

4 交通事故で介護認定を受けて,その上で将来の介護費用を受け取っても,いいのでしょうか。(クリックすると回答)


将来の介護給付について損益相殺として控除しないのは,現在の法制度から見て当然だと思います。

しかし,例えば後遺障害1級に該当して将来の介護費用を賠償された場合において,併せて介護保険給付を受けるというのは,二重取りとなるのではないかという指摘も一方ではあります。
(例えば,慶應義塾大学出版会 「高齢者の交通事故と補償問題」p94 )

上記では,公平のために解釈を変更してでも,それを防止すべきであるという示唆もなされています。
例えば,65歳までは賠償による将来の介護費用の問題として,それ以降は介護保険の適用対象とすると言うことも提案されています。

一つの考え方かと思われますが,現状では賠償実務に混乱を持ち込むおそれもあり,さらなる検討の必要性があります。

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